はじめに
2月2日から7日(日曜日の6日は除く)まで、岩手日報に岩手竜星戦決勝の棋譜と私の自戦記が掲載されました。
読んで頂いた方にはこの場で感謝申し上げます。

今回は岩手日報を普段読まない方や見逃してしまった方のために、担当者様に提出した原文を掲載します。
岩手日報に掲載されたものとは若干表現などが変わっている点はご了承ください。
また手数の右に書いているのは譜ごとのタイトル名であり、101手目以降の数字は文章中ではすべて1〜100で表します。(例:128手目▶28)
第1譜 1〜16手目まで メイクデビュー

こんにちは。まつひかです。
今回から岩手竜星戦決勝の対局を解説していきます。
観戦記は以前二度執筆させて頂きましたが、自戦記は今回が初めてです。
なので温かい目で見守って頂ければ幸いです笑
しかもその対局相手が、私の最初の師匠である江村秀弘さんというのは特別な縁を感じます。
江村さんには小学生のときに2年ほど教えてもらいました。
その影響で、今の私の碁のベースとなっていることは間違いありません。
教えてもらったことへの恩返しをするのには絶好の機会となりました。
お互い深いヨミを武器に戦うので、激しい戦いの碁となっています。
ぜひ最後までお楽しみください。
また今回の大会は、私が岩手に戻ってきてから初めて出場した大会でもあります。
夢である無敗で岩手全冠制覇の第一歩を刻むためにも負けられない戦いでしたが、決勝までには二度の死線を乗り越えていました。
二回戦での簡聡さんと準々決勝での山中太成さんとの対局は負けの場面がありましたが、相手のミスに助けられて決勝まで来ることができました。
これがビギナーズラックというものでしょうか(?)
対局はお互い二連星で始まり、最近流行のダイレクト三々で打ってみました。
黒9のトビはシチョウが良いときに打たれることがあります。
次の黒の一手は候補が沢山あり迷うところです。
第2譜 17〜47手目まで 三々対策

去年の6月26・27日に東北六県大会が開催されましたが、その直前に選手3人と私を含めた県内強豪数人で研究会が行われました。
そこで副将を務めた渡辺健さんと対局しましたが、得意の三々布石に成す術もなく負かされてしまいました。
前譜で無敗の岩手全冠制覇を目標にしていると述べましたが、この敗戦で強い危機感を抱いたことを覚えています。
ですので岩手竜星戦の1ヶ月前から、囲碁AI Golaxyを用いて三々対策を徹底的に行いました。
本大会では渡辺さんとの対戦はありませんでしたが、準々決勝での山中太成さんと準決勝での島崎紘一さんが三々を打ってきたので、対策が無駄にならずに済みました。
その後10月3日に行われた岩手棋聖戦挑戦者決定戦では準々決勝で渡辺さんと対局し、対策通りに局面が進行してリベンジを果たすことができて嬉しかったです。
対局ですが、黒33・35を決めてから黒37とツケたのにはある狙いがありました。
参考図のように白1とハネ出して来たときは黒6(白9の上)のキリが狙いです。
江村さんもこの手を読めていたので、白38とブツカリで受けました。
黒47の時点では少し黒が打ちやすいと感じていました。
参考図

第3譜 48〜84手目まで 手筋と詰碁Ⅰ

皆さんは囲碁の勉強をするにあたって、一番に比重を置いているのは何でしょうか。
私は手筋と詰碁に最も時間を掛けており、岩手竜星戦の前には七段合格の手筋・死活や基本手筋事典、山田規三生九段の詰碁本を繰り返し解いていました。
そのおかげで決勝戦では読み負けすることなく戦い切ることができ、岩手竜星戦の2週間後には野狐で最高段位の9段に初めて昇段することができました。
岩手県に野狐9段はおそらく私しかいないので、Twitter上では勝手に「岩手囲碁界の総大将」と名乗らせてもらっています笑
対局ですが、下辺でまた戦いが始まりました。
黒69と打った以上、白70に対しては参考図のように白を分断しなければいけませんでした。
実践は隅を取られるのが大きいと判断してしまいましたが、黒9にまわれば中央の白に切りが残っているので右上で勝負できたようです。
白84は次に13−8にカケて攻め合いで黒5子を取る狙いでしたが、実は黒から巧い手があって白を取ることができます。
その手を発見できて勝つことができました。
手筋を勉強した効果がここで表れました。
参考図

第4譜 85〜102手目まで 手筋と詰碁Ⅱ

94▶95の下、96=102
手筋と詰碁をある程度勉強してわかったことがあります。
手筋は形が決まっているので全パターンを覚えればどんな問題も解くことが可能ですが、詰碁はパズル的な要素があるので問題ごとに考える必要があります。
手筋が基本とするならば、詰碁は応用といった感じでしょうか。
詰碁は基本死活と呼ばれる実践にもよく出るような簡単なものから、プロでも解くのが難しいものまであります。
以前大橋拓文先生の書かれた『万里一空』を購入したので解いてみようとしましたが、1問目を見た瞬間に本を閉じてしまいました。
あの本は難易度設定がバグっているので、棋力がプロレベルに到達したときに購入するのをオススメします笑
対局ですが、攻め合いに勝つ手を発見したので黒85と打つことができました。
江村秀弘さんも自身の見損じに気づいたので、白88と左辺の黒に迫りました。
参考図のように白1と打てば手数は伸びますが、黒6とタケフをツグ手があります。
この手が唯一攻め合いに勝つ手筋でした。
江村さんは最後の勝負で白102まで左辺の黒を取りに来ましたが、次の一手を打てたことで勝ちを確信しました。
参考図

第5譜 103〜141手目まで 夢を駆ける

115・121=124、117=122
黒3が左辺黒の大石の急所でした。
白は外の眼を奪いに行く前に、黒3の一路下にノゾキを打つべきでした。
参考図のように白1と迫って来ても、黒2のサガリから生きることができます。
白8のツケから白12の切りには一瞬焦りました。
この手は部分的には成立しませんが、すぐ真下で攻め合いが起きていて白が厚いので、黒は妥協するしかありませんでした。
黒は少し損をしましたが、形勢にはまったく影響しませんでした。
白30から再び左辺の黒を取りに来ましたが、最後は中央の白が逆に取られて投了となりました。
この勝利により、岩手県復帰後初めての県大会で優勝することができました。
ヒカルの碁スクール入校式でも優勝すると宣言していたので、内心とてもプレッシャーを感じていました笑
そして11月21日に行われた岩手棋聖戦挑戦手合でも勝つことができ、岩手2冠を達成することができました。
第1譜のタイトル名「メイクデビュー」と今回の「夢を駆ける」はウマ娘のOPからとらせて頂きましたが、今の自分にぴったりの言葉だと思います。
このまま残りの3大会も優勝し、東北六県大会では岩手県を優勝に導きます。
参考図

まとめ
今後も岩手日報に私の自戦記が掲載されると思いますが、こういった形で原文を記事にして投稿しようと思います。
また最後の方にも書きましたが、岩手全冠制覇と東北六県大会優勝は私の今年の目標です。
そしてタイトル名の如く、2022年は「夢を駆ける」1年にしたいと思っています。